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今改めて「社宅」が注目されるわけとは?

市況

山田 恵二

筆者 山田 恵二

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本日は、高騰する賃貸市場を背景にあらためて注目されつつある「社宅・寮」の話題についてご紹介したいと思います。市街地での単身者向け賃料はここ数年マンション売買価格高騰に比例して上昇が続いています。住宅手当だけでは追いつかず、都心から1時間程度離れた準近郊や郊外での賃貸居住および通勤が増加している状況です。人材の確保・育成は中小企業にとっても重要課題になっており、社員向けの福利厚生ビジネスは今後更に拡大する可能性があります。


不動産情報サービスのアットホームが先日発表した9月の東京23区の賃貸マンション平均募集家賃は、単身者向けが前月比0.1%高の11万4460円でした。集計を開始した2015年1月以降の最高値を2カ月連続で更新している状況です。(※専有面積30㎡以下を単身者向けとして調査。家賃は管理費や共益費などを含む。)

引っ越し費用の上昇などから入居者が住み替えを控え、空室の物件が出にくい状況が続いています。新たに募集できる物件ではオーナーが強気の家賃を設定しやすくなっています。さらに契約更新時の値上げも増え、相場が押し上げられています。一方で、東京23区では家賃の上昇ペースが緩やかになりつつあります。9月は前年同月と比べて9.7%(1万101円)高くなっており、7月は10.5%、8月は10.0%で徐々に縮小しています。相場は高値の踊り場に入ったのかもしれません。今後は家賃が高すぎる物件には借り手がつかず、選別が進んでいきそうです。東京23区の家賃は上昇基調にはあるものの、借り手が許容できる家賃にも限界がみえ始め、値上げ余地は狭まりつつあるようです。

借り手は割高な都心部を敬遠し郊外に選択肢を広げ、首都圏では東京都の23区以外が前月比0.6%高の6万8802円、神奈川県が0.7%高の8万3161円、埼玉県が0.6%高の7万3078円、千葉県が0.5%高の7万7356円といずれも最高値を更新しています。

そんな中、こうした背景もあり企業が単身向けの社宅や社員寮を充実させています。社宅管理代行のリログループが管理する戸数は3年間で25%増えているそうです。東京都内を中心に家賃が高騰するなか、住宅関連の福利厚生を手厚くし、若手人材の採用・定着につなげる狙いがあるようです。新規契約の7割超が1LDK以下と、主に単身者向けの物件というのも興味深いです。メディアによると企業からの新規問い合わせ件数が2023年度比で5.6倍に増えており、相談企業の7割は従業員500人未満だそうです。同社は高まるニーズを受け、中小企業向けに借り上げ社宅導入支援サービスも6月に始めています。総務省が5年ごとに実施している「住宅・土地統計調査」によると、「社宅など」の戸数は130万2000戸と、30年ぶりに前回調査を上回ったとのことです。

人材確保・定着の面で若手の負担を軽減する福利厚生環境をいかにつくるかが重要になってきています。社宅には税制面でメリットがあり、条件を満たせば給与課税の対象にならないところもポイントです。現金手当に比べ、従業員の実質的な負担軽減につながる場合もあり注目されています。

さらに、社宅同様、社員寮のニーズも高まってきています。企業向けの社員寮の管理・運営を手掛ける共立メンテナンスでは問い合わせ件数が、2026年1〜8月に前年同期比15%増えているそうです。大企業からスタートアップまで引き合いがあるといいます。都市部で住まいが必要な地方在住の学生も視野に、採用競争で優位に立つために福利厚生を充実させたい企業は多いようです。

昔の社員寮と違うのは、人材育成の観点からも社員寮は見直されている点です。伊藤忠商事は今年に入り事務を担う「ビジネスエキスパート職」向けに独身寮を開いたことが話題になりました。地方出身者が東京で働く際の不安や負担を和らげる狙いがあるようです。同社は2018年、若手社員育成のために男性寮を復活し、2025年に女性向けも新設しました。料金は水道光熱費込みで月1万5000円と高家賃の都内通勤者からするとあなり魅力的です。新入社員は原則全員が入寮するそうで、部署や年代を超えた人間関係の構築につなげる効果があるそうです。一方で、家族向け社宅を原則廃止する電鉄企業もあります。跡地には分譲・賃貸マンションを建設する予定のようで、家族向けで人気だった物件でも、入居率が3分の1ほどに低下している事例があるといいます。

バブル期の80年代後半にも社員寮ブームはありました。当時も手厚い福利厚生や人材育成、地方出身者対策、税制上のメリットは説かれていました。違いはバブル期は時代の空気と新卒の大量一括採用の企業間の激しい人材獲得競争に煽られてか豪華施設の建設が目立ったことかと思います。その豪華社員寮の多くはすぐ後のバブル崩壊と続いて始まったデフレの時代に企業の持たざる経営へのシフトもあり売却され、それから40年近くを経て再び到来した社員寮・社宅ブームになっています。その施設はバブル期とはまったく違うもの、専業企業の効率的運営という違いはあるでしょうが、地価家賃の高騰と人手不足の時代に起こるブームという皮肉な共通点はあると思います。

今後企業側に求められる点として、初任給引き上げに伴う既存社員の不満を抑えつつ、若手の処遇を引き上げていかなくてはいかないというデリケートな部分でも導入しやすい手法なのかもしれません。一方、長期にわたる成長や挑戦を期待するには、仕事のやりがい醸成やキャリア形成といった業務・キャリア面の支援も不可欠です。環境面の充実を契機に入社した若手に長く活躍してもらうためには、福利厚生だけでなく、本質的な育成・キャリア支援にも積極的に投資していく必要があります。


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