
今の不動産は本当に「バブル」なのか?
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本日は、今の不動産高騰を受け経済全体のインフレ性質と照らし合わせながら、本当に昭和時の「バブル期」を迎えているのか?についてご紹介したいと思います。

近年、米国を中心に人工知能AI関連株が大きく上昇しているなか日本でも日経平均株価は右肩上がりが続き、不動産も首都圏を中心に全国の地方都市でも高値圏で推移しています。しかし、我々が連想する1980年代後半から1990年代前まで続いた俗に言う「バブル」とは少々異なるように思います。それは、資産の取引価格がその資産の本質的な価値から乖離している状態をバブルと呼ぶからです。
本質的な価値とは資産が将来生み出す収益を利子率やリスクで割り引いた「割引現在価値」であり、ファンダメンタルズとも呼ばれます。これは、不動産コンサルティング業界でもよく引用する言葉で、将来の転売を前提としない買い手にとって妥当な価格ということです。
住宅を例にとると、住み続けることを前提にした買い手の「実需」が価格を決めていれば、経済学的な意味でバブルとは言えません。対して経済学的なバブルとは、実需では説明できない価格が投機によって支えられている状態のことを指します。一方、長期保有を前提としない投資家が、将来の転売益を見込んで住宅を購入する場合は同様の行動が繰り返され、「高値で売れる」期待だけで価格がつり上がる状態が続くのが本当の意味での「バブル」です。
では、こうして考えると主として米国市場で観察されているAI関連株の上昇はバブルなのでしょうか?AIは生産性を大きく引き上げる可能性を秘めています。生成AIやAIエージェントの活用により、2030年までに世界全体で年間最大4.4兆ドル(約670兆円)規模の付加価値が生み出されるとの推計もあるくらいです。このような前提で投資家が将来の企業業績を強気に見込むことは十分あり得ることです。また現在のAI開発を世界的にリードしているのは米国企業です。AIが提供するサービスには利用者が増えるほど価値が高まり、さらに利用者を引きつける性質があります。かつてパソコンのOSや検索エンジンで見られたように、先行する企業が独占的な利潤を得やすい状況が生じ得ます。この点を踏まえれば、AIの普及によって生まれる利益が米国企業に集中するとの見方にも一定の合理性があります。いわば将来の収益力を見込んだ投資家の「実需」が、株価形成に一定の役割を果たしていると解釈できるからです。なのでこの場合、株価が高水準でも経済学的な意味でバブルと断定することは難しいと思います。
しかしそれに対し日本の株高高騰に関しては、いささか疑問に感じてしまいます。日本にも半導体製造装置の分野などで、AIブームに乗る優良企業は存在します。しかし世界全体で見れば、日本がAIブームの中心にいるとは言い難く近年、世界のベンチャーキャピタル投資の5割超がAI分野に集中する一方、日本企業が占める割合は世界全体の1%にも満たないと言われています。
この状況を踏まえると、日本の株高を米国と同様にAIへの期待に基づく実需だけで説明するのは難しいと思います。では現在の日本の株高はバブルなのでしょうか?そう結論づける前に、日本の金融環境にも目を向けなければいけません。
忘れてはいけないのが、現在の日本は実質金利がマイナスの状態にあります。冒頭でお話ししたように当時の日本のバブル期とはここが大きな相違点です。実質金利とは名目金利から予想インフレ率を差し引いたもので、借り手の実質的な資金調達コストを示します。用いる名目金利や予想インフレ率によって水準は異なるが、日銀の政策金利(年率0.75%)と昨年のインフレ率(年率3.1%)から計算すると、足元の実質金利はおおよそマイナス2%となります。
新型コロナウイルス禍が拡大した2020年頃は、金融緩和に動いた米国や欧州も日本と共に実質金利がマイナス圏にありました。しかし、その後は対応が世界で大きく割れました。欧米は利上げを進めてプラス圏に戻したのに対し、日本は更なる景気悪化を懸念し、名目金利の調整が緩やかにとどまり、実質金利がマイナス圏のままを維持しました。日本の金融環境が米国とは明確に異なる点です。
実質金利がマイナスの環境では、名目金利よりもインフレ率が高いため、時間がたつだけで借金の実質的な負担が減ります。その結果、収益が伴わなくても資産価格がインフレ率並みに上昇するだけで、借り入れコストを賄える可能性があります。だとすれば、保有期間中に配当が得られる株式への投資はなおさら魅力的に映るわけです。株式投資への関心が高まれば、需要の増加を通じて株価が押し上げられやすくなっていきます。こうした株価の押し上げ効果は、実質金利のマイナス幅が大きく、その状態が長く続くと見込まれるほど強まる傾向にあります。
そして、面白いのがこの理屈は不動産価格にも当てはまるところです。借り入れを伴う不動産ビジネスは、実質金利がマイナスのもとでは採算が取りやすくなります。また自ら住むために住宅をローンで購入する場合も、居住者は家賃を支払わずに住めるというサービスを享受できます。実質金利がマイナスなら借金の実質的な負担は時間とともに軽くなります。このため自ら住むためにローンで住宅を購入することも、経済的に合理的な選択になりやすいわけです。もっとも、住宅需要が押し上げられてもそれに合わせて新築住宅の供給はすぐにはできません。その結果、需要の増加は価格上昇に反映され、これから住宅を購入する人の負担としてのしかかる構造へと変わっていきます。
このようにマイナスの実質金利は、株式や不動産への投資行動を通じて資産価格を押し上げる力として働くと思います。以前のSANSHIN picksでもお話ししましたが他にも建築資材費高騰や人材不足に伴う人件費高騰など、様々なコスト上昇要因が資産価格に作用していますが、一部はこうした「実需」によって説明できます。
その意味で私は現時点の日本の株価や不動産価格を本当の意味で「バブル」と断定するのは難しいと感じています。しかし、だからといって安心も全く出来ません。足元のファンダメンタルズの一部は、金融緩和の継続といった政策のスタンスが強く反映された結果である可能性が大きく、市場とのコミュニケーションが不十分なまま政策が変化すれば、経済全体を不安定にするリスクがあるからです。
さらに、現在の資産価格の上昇が本当の意味でのバブルを誘発する可能性も十分あり得ます。実際、この状況を当時の日本のバブルと重ね、投機と判断した投資家かの需要は増しています。かつて「地価は下がらない」という土地神話とともに、都市部の地価は現実離れした水準まで上昇しました。株価や不動産価格は下がらないという錯覚が投機に火を付ければ、同じような現象が再び起きる恐れがあります。本物のバブルが発生すれば、政策運営は一層難しい局面を迎えることになります。実需だけでなく、投資も買い手としては今の不動産高騰への冷静な分析は求められてきています。
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