日銀当座預金残高から読み解く住宅ローンの今後
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本日は、「住宅ローン」の中でも利用者の選択として大半を占める「変動金利」の今後について日銀の決算発表から考察してみたいと思います。
先日住宅ローンについて久しぶりにブログ投稿したところ有難いことに反響が大きく、中でも皆様が気になっているのは「変動金利」の今後についてです。我々の生活面で直結しているこの「住宅ローン」において利用者割合の多い「変動型金利」について現状の日銀財政状況と金融緩和維持の観点から考えてみましょう。
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日銀が先週公表した2022年度決算で目を引いたのは、保有する上場投資信託(ETF)からの分配金等(以下、分配金)の大きさです。2021年度から約2600億円増えて、保有国債からの利息収入(約1兆3000億円)にさらに近づいてきました。国債以外にも株式の利息収入が増えている状況で、必ずしも正常な中銀のバランスシートの姿ではないという植田和男総裁の指摘の通りかと思います。
はたして、今後この大量に購入しているETFをどう処理していくのか⁉︎気になるところです。日銀は2021年春、ETF買い入れは株価が大きく下落した時に限る方針に改めました。それまで年間4兆~7兆円程度買っていましたが2023年1~5月は約1400億円に抑え込むことが出来ました。問題はストック面で、2023年3月末時点の日銀保有ETFは簿価で約37兆円、時価にすると約53兆円であり、東証プライム市場の時価総額の7%程度に相当する状況です。出口政策として、売却制限を付けた上で思い切った割引価格で国民に譲渡し、人々の資産形成に貢献すべきだという議論もあるますが個人の資産所得増加を重視する中、どの様に市場開放するのか様々な意見が飛び交っています。
しかしながら、ETFの手放し方にも慎重さが必要なことも確かです。ETFの分配金もある程度確保していかなくてはなりません。日銀が短期の政策金利引き上げを進める場合、金融機関が持つ日銀当座預金の大部分にかかる金利を上げる手法をとります。注目すべきは異次元金融緩和によって当座預金残高が膨れ上がっていることです。2023年3月時点で付利の対象部分は520兆円程度あるそうです。ここで政策金利を上げる選択をとれば当然自分の首を絞める形になります。それだけではありません、国民の生活レベルにも大きな影響を与えることになります。例えば現在5,000万円の住宅ローン借入をし、0.45%の変動金利(借入期間は35年と試算)で毎月返済していた場合月々128,690円ですが、政策金利が0.5%上昇したと仮定すると月々139,980円に返済額が増額し、年間135,480円も支出が増える計算になります(※こちらは単純な金利計算となります、変動金利には金利上昇時に備えた返済ルールもありますので後記をご参照ください)。ライフラインの利用料金が上がるだけでも大変なこの時期に物価上昇と住宅ローン返済額上昇のダブルパンチとなれば急激な消費力低下に繋がり経済に大きな打撃を与え一気に冷え込んでしまいます。
ここで少々変動金利についておさらいしましょう!
1. 適用金利は半年ごとに見直される
変動金利は文字どおり金利が変動するタイプです。借りたあと、適用金利は半年ごとに見直されます。金融機関によって異なる可能性はありますが、多くは4月と10月に見直しが行われ、翌々月から適用されます。現在は、日銀の金融政策により、変動金利に影響する「無担保コールレート(オーバーナイト物)」がコントロールされていることから、変動金利に大きな動きはありません。しかし、今後、金融政策の方針が変わって利上げに踏み切ることがあれば、適用金利が上昇する可能性があります。
2. 適用金利が変わっても毎月返済額は5年間固定(5年ルール)
元利均等方式の変動金利で借りた場合、半年ごとの金利見直しにより適用金利が上がったとしても、5年間は毎月の返済額は変わりません。これは、金利が上がっても家計への影響が抑えられるようにと設けられた仕組みで、「5年ルール」と呼ばれています。
3. 5年ルールにより返済額は変わらなくても、元利割合は見直されている
5年ルールにより返済額は5年間変わらないものの、適用金利が変われば、返済額に占める元金と利息の割合は変わります(返済は利息が優先されます)。例えば、毎月の返済額の合計が10万円で、元金返済額9万5000円、利息が5000円だったとします。適用金利が上がって支払利息が増えると、月10万円の返済額は変わらなくても、内訳が「元金9万円+利息1万円」などと変わる可能性があります。返済額の内訳について通知などはないため、借りている本人は気づいていないこともあります。
4. 5年経過後の返済額上限は従前の125%まで(125%ルール)
2.のとおり、元利均等方式の変動金利の住宅ローンは5年ルールにより、たとえ金利が上昇しても5年間の返済額は変わらず、6年目にその時点の適用金利によって返済額が見直されます。このとき、適用金利がどれだけ高くなっていても、返済額の上限は125%までに抑えられます。この特徴は「125%ルール」と言われています。従前の毎月返済額が10万円だった場合、6年目の見直しの際の上限は月12万5000円。適用金利が大きく上がった場合でも家計への影響を抑えるための仕組みです。
5. 急激な金利上昇が続くと未払利息が発生する可能性も
変動金利で急激な金利上昇が続いた場合、5年ルールや125%ルールが裏目に出て、返済額に占める元金と利息の割合が逆転して返済額がほぼ利息、となってしまうこともあり得ます。悪くすると、返済額がすべて利息になってしまったり、さらには、返済額では返しきれない利息が発生すると、「未払利息」として払いきれない利息分、翌月以降の返済に繰り延べされます。多くの場合、最終回の返済日に、未払利息分は残りの元金とともに全額を一括で返済しなくてはなりません。
少し話はそれてしまいましたが、国民だけではなく国としても政策金利を上げるのは危険な財務状況です。2022年度の日銀決算で最終利益(当期剰余金)は現行日銀法の施行(1998年)以降で最高になったといいますが、それでも約2兆円あまりです。過去最高益といっても、仮に短期政策金利を0.5%に上げた場合、追加的支出で消え、赤字転落しかねない状況です。
日銀は引当金取り崩しといった手段で対処しそうですが、引当金などからなる「自己資本」は2022年度末で12兆円程度しかありません。仮に物価上昇圧力が強まり、0.5%を一定程度上回る水準へ利上げを進めていくなら、何年かで債務超過になる恐れも出てきます。そこで重要なのは、前述にお話ししたETF分配金が無ければ財務状況の悪化がより早まりかねないという点です。
そうした考えもあり慎重にならざるを得ないわけです。時価で売るならともかく、含み益を個人投資家に還元するような割引価格での売却では日銀は利益も確保しにくくなります。
こう見てくると利上げと保有ETFの割引価格での処分という2つの出口政策の両立は簡単ではなさそうです。日銀の巨額ETF保有は株価形成やガバナンスに問題を生んでいる懸念が囁かれてはいますが、異次元緩和の解体作業はこうした観点からもおいそれと一気に進められない事情も国際大量購入の弊害として出てきてしまっています。
住宅において言えば、圧倒的に利用者が多く国民への生活面での影響が甚大な「変動金利」ですが長期金利の調整でなんとか踏ん張っている今の状況からすると、まずは日銀の財務状況の健全化をしてからでないと現段階での「政策金利」のテコ入れはかなり危険に思います。本日お話しした観点からもここに関しては、まだまだ最後の手段としてとっておく必要がありそうです。
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