老朽化マンションの給排水管工事問題
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本日は、老朽化マンションの給排水管工事の話題についてご紹介したいと思います。今年1月に埼玉県八潮市で発生した大規模な道路陥没事故の原因は、地下に埋設された下水道管の老朽化による破損と、そこから土砂が流れ込んだことによる空洞の形成と言われています。一般的に給排水管の耐用年数は使用される素材や環境によって異なりますが、鋳鉄管や銅管などの金属製は、30〜40年の寿命があるとされています。 最近使用されているステンレス管や、ポリ塩化ビニルやポリエチレンなどのプラスチック製は、耐久性が高く50年以上使用できることもあります。毎日使用している水道管は当然マンションにとっても生命線となりますので、老朽化したマンションは漏水の原因にもなり無視できない問題です。
築年数が40年超など高経年のマンションが増えるなか、こうした給排水管の更新工事が急務になってきています。建物の外壁などを修繕しても、内部の給排水管が老朽化すれば、漏水などが発生して居住に支障が出ます。マンションともなると全体の工事には億単位の費用がかかりますが、設備を刷新できれば、建物の寿命を延ばせるだけではなく、資産価値の向上も期待出来ます。
しかし、それだけの莫大な費用を捻出するのは容易ではなく、当然に負担するのは利用している所有者になります。マンションのような集合住宅の場合、所有者の合意を取れず何年もの間、膠着状態が続いているケースも珍しくありません。高経年のマンションでは金属製の給排水管が多く、水漏れがトラブルになりやすいのも事実です。金属製は年月の経過とともに腐食するため、腐食箇所から漏水すれば建物に被害が及んでしまいます。
給排水管の工事費用は高額になりやすく金属製の給排水管の場合、工事は「更生工事」と「更新工事」があります。更生工事は内部のさびを取り十数年ほど管を延命させることが出来ます。一方、更新工事はさびない樹脂製の給排水管に取り換えることで、追加の大工事は不要となります。マンションの規模などで費用は異なりますが、更新工事の場合、床をはがすなど大規模になるため1戸当たり100万〜300万円になると言われています。こうした費用を賄うには、規模や内容によっては月々の修繕積立金を増額する必要があります。更生工事は現在の積立金の範囲内で賄えても、長期的に見れば管の寿命で更新工事が必要となります。費用面で総合的に考えると住戸内の給排水管工事は細切れではなく1回で終わらせたほうが経済的という考え方もあり、無駄な工事をしないことが結果として節約になることもあります。
給排水管は専有部分と共用部分にまたがることから、更新工事をどこまで手掛け、誰が費用を負担するかが論点になりやすいです。費用はかさみますが、管理組合が専有部分も含めて更新工事を担うと建物全体の価値を高めやすく、修繕積立金は基本は共用部分に使われるため前段の話同様、全体を施工するか共用部のみに留めるかも論点になります。
捻出する費用を考えると住民間の合意形成もなかなか難しいです。分譲マンションは一般的に、長期修繕計画に共用部給排水管工事は盛り込んでいますが、専有部分の給排水管まで対象にしないケースが多く、専有部分の工事を費用も含めて管理組合が手掛けるには、長期修繕計画の修正や管理規約の改定が必要になります。総会の特別決議として、組合員総数と議決権総数でともに4分の3以上の賛成を得なくてはならないのが合意が取りにくい要因です。特に、給排水管は外壁などと違い、見えない部分なだけに設備の劣化を認識しにくいです。住民の合意を得るには、工事の必要性やメリットを理解してもらうことが先決で十分な話し合いも不可欠です。
時間はかかっても管理組合や住民の協力のもと過去には解決事例もあります。築51年で688戸の埼玉県三郷市の「みさと第一住宅」漏水事故が多発し、建物を長く使い続けるには給排水管の更新工事が必要と考えた住民が準備委員会を立ち上げ、5年かけて準備し2024年3月に約2年半の更新工事を終えています。漏水事故を防ぐために工事は専有部分も含めたほか、風呂場を最新のユニットバスにする費用の大部分を管理組合が協力金として支給することにし、委員会は住民説明会を複数回開催しました。工事の流れや意図などをまとめた広報紙やDVDを配布したほか、説明会に出られなかった人には個別訪問をするなどで合意形成に結びつける徹底的なケアをしています。工事中は住民が過ごしやすいよう配慮しており、住居内は配管の位置を変える大規模工事のため、1週間ほど水回りの設備が使えない状況を委員会は近隣の温泉施設を割引価格で使えるように交渉したり、敷地内の広場に仮設のトイレやシャワー室、洗濯機を設置したりして対応することで住民の理解を得ています。問題の費用面でも、工事費用の総額18億円は修繕積立金約14.5億円と国の補助金約3.5億円で賄うことで入居者負担の軽減に成功しています。昨今問題になっている所有者不明空き家などもあり相続放棄され、弁護士の管轄となっていた部屋も管理組合が交渉して工事を手掛けたところ、設備が刷新されたことで部屋の競売が成立、未納だった修繕積立金も回収できるという最高の着地で終わっています。
さらには工事により、資産価値が上がったケースもあります。築45年の神奈川県横浜市の「霧が丘グリーンタウン第一住宅」は、大規模な水漏れ事故の発生がきっかけとなり、2015年に給排水管の全面的な更新工事を終えています。工事により新たな事故を防ぐことができ、設備刷新への住民の理解が高まったといいます。さらに2021年には大規模修繕工事で給湯器の省エネ化や窓の断熱化などを完了したことで、設備が最新の水準になり若い世代の入居も増えつつあるそうです。物件の売却価格は給排水管工事前に比べ200万〜300万円ほど上昇し資産価値の向上にもつながったケースです。
2023年度のマンション総合調査によると、建物の不具合によるトラブルでは「水漏れ」が20%と最多だったそうです。特に築40年超のマンションで増えるようで、金属製の給排水管の寿命は40年なのでこれを超えると抜本的な対策が必要になります。給排水管は人間の体なら血管にあたります。建物全体を長持ちさせるには給排水管の修繕は欠かせません。一方で管理組合の動きは鈍く、マンション総合調査で「老朽化対策の議論をしていない」「議論したが方向性が出ていない」と答えた管理組合は約79%に上るそうです。
以前にも、SANSHINpicksでも取り上げましたがマンションの高経年化は深刻です。国土交通省の調べでは、築40年以上のマンションは2023年末時点で約137万戸で、約20年後の2043年には、約464万戸に増加する見通しだそうです。
給排水管の更新工事には多くの資金が必要になります。修繕積立金だけで賄えない場合に活用できるのが金融機関のローンです。代表的なのが、住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」です。保証料が必要になりますが、法人格がなくても借りられるなど、マンション管理組合が使いやすいように設計されていることが特徴になっています。固定金利で、2025年3月時点の融資金利は返済期間10年以内で年0.97%なので現実的な金利かと思います。
融資金利の優遇制度があるのも特徴です。例えば、省エネ対策の工事を手掛ければ年0.2%、同機構の「マンションすまい・る債」を購入・運用中であればさらに年0.2%金利が引き下げられます。最大の下げ幅は年0.6%で、下限は0.1%となっています。自治体によっては、住宅金融支援機構の融資の金利に対して助成制度を設けており、東京都は最大で1%の利子分を支給する取り組みを行っています。こうした制度を組み合わせれば、実質無利子で資金を借りられるというわけです。
融資を受けるには、修繕積立金が1年以上定期的に積み立てられ、滞納割合が原則10%以内など条件があり、管理規約の改定などが必要な場合、融資が決まるまで半年ほどかかることもあるため、検討している管理組合は早めに動かないと長期戦になることは不可避です。2023年度の融資の受理金額は前年度比37%増の約196億円となっており、今後の老朽化マンションの推移を考えれば現在お住まいのマンションも軽視出来ない話題だと思います。
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