
不動産の過剰融資は警戒すべきか⁉︎

不動産業向け融資は、マンションの建設やオフィスなど物件の取得に必要な資金を金融機関が貸し出すもので、個人が貸家を建てる際に使うアパートローン資金も含んでいます。主な借り手はデベロッパー(開発業者)や賃貸業者、不動産ファンドということもあり不動産供給数にも当然に影響しています。
金融機関の中でも特に経営の依存度が高いのは地銀で、全国地方銀行協会によると、6月末の不動産業向け融資残高は前年同月から3兆1221億円増えています。1年間の増加幅としては統計を遡れる2011年以来で最大となっており、住宅ローンを含めると金額はさらに大きくなります。横浜フィナンシャルグループ(以降:FG)傘下の東日本銀行は、貸し出し全体に占める不動産業の割合が3月に物品賃貸業を含むベースで47%にのぼっており、取引が活発な首都圏の不動産関連需要の取り込みに力を入れた結果となっています。リゾートマンションの開発が盛んな沖縄地方では、沖縄海邦銀が融資全体に占める不動産業向けの割合が4割となっており、島根銀や佐賀共栄銀は物品賃貸業も含む割合で3割を超えています。
一方で、3メガの国内向け貸出に占める不動産業向け融資の割合は3月時点で18%で、海外融資も含めると比率はさらに下がっています。バブル期との違いは、人口減少に伴う地域経済の縮小なのかもしれません。地盤地域の企業の資金需要が冷え込むなか、地銀は新規参入しやすく、資金需要も旺盛な大都市圏の不動産業への「越境融資」に活路を見いだしています。個人向け住宅ローンにおいても、一時加熱する低金利競争にも参画しており、山口県の山口銀行は他行との差別化をはかるべく当時では珍しい超長期償還の住宅ローンを都内で開始しました。それだけ、地元向けの融資では経営上厳しく、都内で都内向け商品を促進するほかなかったのかもしれません。
金融庁によると、東京都港区など都心5区での不動産業向け融資のうち6割は首都圏外に本店を置く銀行によるものでした。2025年3月時点で、全国の地銀の不動産業向け融資の約4分の1がこの地区に集中していることになります。たとえば山梨中央銀は2028年3月期までの中期経営計画で東京エリアの強化を掲げており、不動産業や製造業などを中心に取引を広げる計画を発表しています。
信用金庫でも融資全体に占める不動産業向けの割合は23%にのぼっており、大阪厚生信金は不動産融資の割合が6割と加熱ぶりが伺えます。不動産価格の上昇がマネーを引き寄せ、集まる資金が価格をさらに押し上げる構図となっています。不動産サービス大手の米ジョーンズラングラサール(JLL)によると、2026年1〜6月の国内の不動産売買額は前年同期比17%増の3兆7517億円と同期間で過去最大を記録しています。
しかし、ここで警戒しなくてはいけないのがバブル期は過剰な融資が不動産価格を実態より押し上げる一因となったということです。大蔵省(現財務省)が1990年に不動産融資の総量規制に踏み切り、バブル崩壊の引き金の一つとなった経緯があります。その後、不動産価格の急落は不良債権を膨らませ、金融危機に発展しました。そして、あのデフレ期に入りました。平成金融危機の主因は信用リスクの集中にもあります。不動産は1つのプロジェクトに対する資金量の巨大さがあるほか、(住宅ローンを含め)不動産価格というリスク特性への集中という意味からも、慎重な運営が不可欠です。さらに、将来的には預金減少の局面を迎え、やせ細った地元事業者向け融資と不動産依存の貸出ポートフォリオという不健全な構成が濃縮されていく怖さもあり、こうした過去の経験からも、過剰融資による危険性は忘れてはいけません。そんな中、ここに来て市況に変調の兆しもみられ始めました。不動産調査会社の東京カンテイによると、東京都心6区(千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷)の中古マンションの平均希望売り出し価格は、8月まで4カ月連続で下落しているところです。都心の主要駅に近い物件関連の需要が堅調な一方、湾岸地域のマンション関連の資金需要には陰りも見え始めています。忘れてはいけないのが、不動産業は特に市況の変化による影響を受けやすい性質を持っており、自行で許容できるリスクの上限を決めておくことが重要だということです。
こうした背景もあり、金融庁はかねてから不動産融資の増勢に警戒を強めてきました。2026事務年度(26年7月〜27年6月)の金融行政方針では、不動産業向け融資の動向を監視対象の一つに挙げており、地域金融機関を対象としたヒアリングでは、一部で不動産業向け融資の限度額が設定されていない銀行もあったといいます。金融当局は現時点で不動産融資がすぐに金融システムを揺るがす問題に発展するとまではみていませんが、日銀は4月の金融システムリポートで、海外ファンドによる投資物件の売却を機に3大都市圏全域で不動産価格が下落する事態を想定し、市場調整時の金融機関への影響を調べています。その結果、現時点ではリーマン・ショック前のミニバブル崩壊時並みに不動産価格が大幅に下落しても金融機関の自己資本比率は全体としては規制水準を上回ると評価しています。日本リスク・データ・バンクによると、不動産向け融資の返済が滞る可能性を示すデフォルト率は7月時点で0.39%と、全体のデフォルト率(1.22%)と比べて低位で推移しています。
ただ足元では金利上昇による採算悪化リスクも懸念されます。日本不動産研究所が4月に実施した調査によると、開発業者など142社のうち、リスク要因として122社が「金利上昇」を挙げています。今後も不動産への集中がさらに進めば、なんらかの環境変化で価格下落と投融資の引き揚げが重なった際に経済ショックを引き起こす恐れもあるため、大局的に見たマーケティングにも注視が必要です。特に、金利上昇下にある今であれば各社デベロッパーは需給バランスを見極めなくては、在庫増加にとどまらず価格崩壊も考えられます。そうなれば、自ずと中古も含めた市場全体にも影響は多大です。今後、金融機関が融資姿勢を慎重化させれば、日銀が追加利上げを行わなくても、金融環境が実質的に引き締まる可能性があります。このため、今後の日銀の金融政策を見通す上では、インフレ動向に加えて、金融環境がどの程度緩和的であるかという評価の重要性が一段と高まると考えています。こうした観点から、今週公表される日銀の最新の金融システムレポートは、これまで以上に注目されることになるでしょう。この問題、今後の不動産業界全体への潮目になるかもしれません。
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